横浜・馬車道の総合診療クリニック

乳がん Breast Cancer

|乳がんとは?

 

乳房には<脂肪組織><乳腺組織>があります。乳がんとは<乳腺>から発生する癌で、脂肪からは発生しません。

 

| 乳腺の腫瘍

 

良性腫瘍  線維腺腫・乳腺症

悪性腫瘍  乳がん・パジェット病

 

|乳腺の解剖と乳がんの発育

乳腺は 小葉というミルクを作る組織乳管というミルクを乳頭まで運ぶ管 から成ります。小葉と乳管は腺葉というちょうどブドウの房のような単位を作っています。一つの腺葉から1本の主乳管が乳頭に開口しています。このような腺葉が10〜15個集まって一つの乳腺となります。各々の腺葉は乳頭を中心とした扇状に分布しています。

 

乳汁を分泌する乳腺小葉上皮あるいは乳頭までの通り道である乳管上皮 が悪性化したものが乳がんです。乳がんの約90%はこの乳管から発生し、乳管がんと呼ばれます。小葉から発生する乳がんが約5〜10%あり、小葉がんと呼ばれます。近年の日本人女性の悪性腫瘍のなかでは最も頻度の高いものとなっています。

乳がんの分類

|乳がんの種類

 

ほとんどの乳がんは乳管の壁から発生し、乳管の中を広がる<乳管内進展>と、乳管の壁を破って乳管の外に広がる<浸潤>という2つパターンで発育をします。乳管内進展は腺葉に沿って進むので、扇形に広がることが多くなります。

 

乳がんは、 非浸潤がん・浸潤がん・パジェット病 の大きく3つに分けられます。

 

発生部位による分類 小葉由来の小葉がん 乳管由来の乳管がん

浸潤度による分類   非浸潤がん  浸潤がん

 

| 非浸潤がん(Non Invasive Cancer)

  • 乳管内または小葉内に留まり血管やリンパ管に浸潤していない
  • 乳がん全体の5−10%を占める
  • 乳頭からの分泌物やマンモグラフィで発見されることが多い
  • 女性ホルモン(エストロゲン)に依存
  • リンパ節転移や遠隔転移は少なく切除すれば完治
  • 周辺組織との境界が分かりやすい

非浸潤がんはしこりを触れないことが多く、検診のマンモグラフィや超音波で発見されたり、血性乳頭分泌で発見されます。非浸潤性乳管がんは比較的少数です。欧米では非浸潤性小葉がんは悪性疾患としては扱われず、経過観察が原則になっています。

 

| 浸潤がん(Invasive Cancer)

  • 上皮基底膜を破り浸潤したガン
  • 乳がん全体の約90%を占める
  • 腫瘤・結節・しこりとして発見されることが多い
  • リンパ節転移(ワキ・胸骨傍リンパ)などの転移を起こす
  • 周辺組織との境界が分かりにくい

浸潤の部分は腫瘤として触れやすいのですが、乳管内の部分は触診では全く触れない(非触知)かぼんやり硬くふれるだけのことが多く、マンモグラフィや超音波などの画像検査が重要となります。

一般型(3種類)  硬がん・乳頭腺管がん・充実腺管がん(約90%)

特殊型(12種類) 粘液がん・浸潤性小葉がんなど (約10%)

 

乳がんの好発転移部位   リンパ節・骨・肺・肝臓・脳
それぞれマンモグラフィや超音波での見え方や、がんの性質が異なります。浸潤がんは血管やリンパ管から全身への血流に乗りリンパ節・骨・肺・肝臓・脳など遠隔転移します。

 

| パジェット病(Paget Disease)

  • 乳頭のびらんで発見される
  • 乳頭や乳輪の湿疹状のただれを症状
  • 多くはしこりを触れない早期のがん
  • 乳がん全体の1%未満
  • 予後は非浸潤がんと同様に良好

治りずらい乳頭部分のびらんはパジェット病の可能性があるります。乳腺科で検査を受けて下さい。

予後不良の炎症性乳がん
乳房全体が炎症状に腫れ全身への転移スピードが早い炎症性乳がんという極めて予後不良のタイプもあります。

 

早期乳がんとは?
  • 触診でわかるしこりの大きさが2cm以下
  • 乳房の皮膚の変異がない
  • 乳房以外の部位への転移がない
  • リンパ節への転移がなく、腫れ・硬いしこりもない
  • しこりが胸壁に固定されていない
  • 組織学的にみて早期と診断される<非浸潤がん>や<小葉がん>
  • パシェット病(乳頭・乳輪部の皮膚浸潤が見られる乳がん)

 

乳がんの原因

|乳がんのリスクファクター 〜 どんな人がかかりやすいのか?

 

乳がんは女性ホルモン(エストロゲン)・遺伝的素因関与しているがんです。つまり 
<エストロゲンにさらされる期間が長いと乳がんにかかりやすい>
<家系に乳がんの人がいるとなりやすい>
ということです。

  • 初潮が早い
  • 閉経が遅い
  • 初産年齢が遅い
  • 高齢で未産
  • 授乳の経験がない
  • 家族に乳がんもしくはがん患者がいる(家族歴)
  • 近親者に乳がんにかかった人がいること、
  • 乳頭腫や線維腺腫などの既往あり(乳房疾患既往歴)
  • 片側の乳がんの既往(乳がん既往歴)
  • 高脂肪食・肥満など(脂肪組織でエストロゲンが産生)

エストロゲン分泌期間が長いと乳腺が萎縮せずに長期間存在します。卵胞ホルモンであるエストロゲンが発がんや増殖・転移に関与しています。経口のホルモン薬も長期にわたって服用すると発がんのリスクを上げるといわれています。閉経後の女性で乳がんが日本で増加している理由は女性の社会進出などのライフスタイルや食生活の欧米化が影響していると考えられます。

乳がんと遺伝
乳ガンは他のがん同様に遺伝子異常の蓄積によって発生することが分かっています。
乳がん特定遺伝子が親から子へ遺伝するのは5−10%です。乳がんの家族や親戚に乳がんの人が多い場合成人後から自己検診し乳がん検診も積極的に受けましょう。

 

|乳がんの疫学

 

日本では年々乳がんの患者様が増加傾向にあります。年間約4万人以上が乳ガンなり約50年間で5倍以上に増加しています。1年間の死亡者数は1万3千人を越え、特に50歳以上、閉経後の壮年女性層に限ると圧倒的に1位になっています。アメリカでは年間23万罹患し死亡者数約4万人です。欧米では、乳がんの患者数は増加傾向。死亡率は1990年代より減少しはじめているのです。マンモグラフィ検診による早期発見と徹底した再発予防のための薬物治療が行われるようになったことが原因と考えられています。

日本人女性のがん罹患率
日 本  大腸⇒肺⇒胃⇒膵臓⇒乳房
アメリカ 乳房⇒肺⇒大腸⇒子宮⇒甲状腺

日本人女性のがん死亡率
日 本  乳房⇒大腸⇒胃⇒肺⇒子宮
アメリカ 肺⇒乳房⇒大腸⇒膵臓⇒子宮

日本では患者様の年齢分布は40歳台後半にピークがあり、欧米の乳癌が閉経後に多いのと比べアジア人の乳癌は若干若い年齢で発症するようです。

乳がんの症状

|乳がんの症状の現れ方

 

自分で気付く乳がんの症状としては

  • しこり(乳房内・わきの下)  90%以上は痛みを伴わない乳房腫瘤
  • 乳首からの血液まじりの分泌
  • 乳首のびらん・ただれ
  • 乳房の皮膚のひきつれ
  • 乳房の変形
  • 乳首の陥没

乳がんでは必ずしも症状が出現する訳ではなく、むしろ無症状のケースが多いです。症状が出ずらいファクターとしては

 

  • 乳がんが小さい
  • 乳癌が乳房の奥の方に存在する
  • 乳がん発育時に塊で成長せず拡散する場合

 

 

乳がんのできやすい部位(好発部位)

乳頭を中心に乳房を5部位に分けると、

 

1.外側上部 44.8%

2.内側上部 23.2%

3.外側下部 13.7%

4.乳輪下部 7.6%

5.内側下部 7.3%

 

院長のひとりごと   左右差の点では左の乳房の方が、がんができやすい傾向にあります。


乳がんの検査と診断

|乳がんの検査と診断

 

乳がんの診断には直接診断と間接診断があります。

 

間接診断 問診・触診・レントゲンや超音波の画像診断

直接診断 腫瘤から細胞・組織を取り顕微鏡でがんの有無を診断(確定診断)

 

| 乳がんの検査

 

問診   受診の前にまとめておきましょう
  • 症状の出現時期・その後の変化
  • 初潮・閉経の年齢
  • 妊娠・出産回数
  • 血縁者に乳がんもしくはがん経験者がいるか(家族歴)
  • がんやその他の大きな病気の経験は(既往歴)
  • 他にどこの病院をいつ受診してどんな検査をしたか、その結果は(受診歴)
視診・触診

まず乳房を観察します(視診) 左右差・くぼみ(えくぼ)・隆起・発赤・皮膚の変化 などを観察します。
次に乳房にしこりがないか注意深く触診します。さらに乳頭からの分泌や出血・乳頭のびらん(ただれ)・かさぶた・脇の下(腋窩)と首(鎖骨上)の リンパ節ををチェックします。

えくぼ兆候(Diplimg Sign)

腫瘤を中心にその周囲を軽く摘まむと腫瘤の部分が<えくぼ>の様にへこむことをいいます。乳がんが周囲組織を巻き込み、引きつらせているためです。

マンモグラフィ(Mammography)

乳腺専用X線撮影装置を用い、乳房を圧迫して薄く平らにしながら撮影するレントゲン検査です。腫瘍の陰影や石灰化など典型的な所見があれば乳がんが強く疑われます。腫瘤の他に、腫瘤を触れないごく早期の乳がん (非浸潤がんを含む)を石灰化で発見できるのが特徴です。閉経後や高齢者の乳房で特に診断しやすく、2000年から日本でもマンモグラフィを用いた検診が導入され、現在では40歳以上の女性の乳がん検診ではこれを使うことがすすめられています。

超音波検査(エコー検査・Ultrasound)

皮膚にゼリーを塗ってプローブ(探触子)をあてて乳房内の腫瘤をモニター画面に映し出す診断法です。腹部や婦人科の超音波と同様ですが、乳腺では、体の表面の浅いところを見る専用のプローブを使います。ベッドサイドで手軽に検査でき、数ミリの小さなしこりをみつけたり、しこりの中が詳しくわかるのが特徴です。観察しながら針で組織や細胞を採取することもできます。若年患者様ではマンモグラフィよりも診断しやすい場合があります。触診で発見される乳がんについて超音波で見えないものはほとんどないと考えられています。

細胞診(Cytology)

腫瘤を注射針で刺して細胞を注射針内に吸引したり(穿刺吸引細胞診)、乳頭分泌物を直接プレパラートに付けて(スメア法)顕微鏡で観察して良性か悪性かを推定する診断法です。比較的容易に検査ができるので乳がんの診断に広く用いられています。吸引細胞診(Aspirated Cytology)では細胞が十分とれればかなり正確に診断がつきますが、細胞だけではがんかどうか微妙な場合や、細胞がうまくとれない場合は、次の組織診が必要になります。良性と悪性との境界病変、非浸潤がんか浸潤がんかの区別がつかないものがあります。また、良性か悪性かの診断がついても、病変の広がりはわかりません。吸引式乳房組織生検には マンモトーム生検・バコラ生検などの方法があります。

細胞診はクラス1−5まで5段階に評価されます。

  • クラス1・2 良性
  • クラス3 良悪性の判断がつかないもの
  • クラス4・5 悪性
外科的摘出生検・組織診(Histology)

乳腺内の組織の一部を外科的に採取して顕微鏡での病理検査を行う方法です。皮膚を切開してしこりを全部あるいは一部摘出し顕微鏡で良性・悪性を判断します。腫瘍の一部を直接採取するため細胞診よりより正確な病理診断ができます。

乳管内視鏡検査

血性乳汁など異常乳頭分泌で乳管内病変の存在が疑われる場合に有用な検査です。分泌を認める乳管から超極細の乳管ファイバーを挿入し、乳管内を内視鏡を通して観察します。病変が確認できた場合はその組織を採取して良悪性の診断を行うことも可能です。

造影MRI検査

強い磁力を発生するMRI装置で造影剤を使用して撮影することで、正常乳腺と病変部位のコントラストからその病変の質的診断をする画像診断です。乳がんの診断となった場合の病変の広がり診断や、良悪性の鑑別診断などに用います。乳がんの乳腺内拡張範囲あるいはリンパ節・肺・肝臓などへの転移の有無も調べられます。

骨シンチグラフィー

骨にがんが転移すると、骨の破壊と再生のバランスが崩れ、骨を作りすぎてしまったり(骨造成、骨硬化)、作らなかったり(骨吸収、溶骨)といった現象が起こります。骨シンチグラフィー検査はこの骨造成を反映する検査であり、がんが骨へ転移しているかどうかを検出するのに頻繁に利用されます。具体的にはラジオアイソトープ(RI)を用います。転移部位にそのRIが多く集積し転移が明らかになります。まず骨シンチグラフィーの薬の注射を行い、薬が全身に浸透する注射後3時間ころから約30分程度の撮影を行います。この検査だけならば、食事や飲み物の制限はありません。

 

乳がんに対してのその他の補助検査

 

PET(ポジトロンCT)

腫瘍細胞は、糖分の取り込みや消費パターンが正常細胞と異なっています。この性質を利用してがんであるかどうか、どこに病巣があるかを調べる検査です。良性・悪性の区別、リンパ節転移の診断、術後の局所再発の確認などにおいては、従来のCTに比べて、同等またはそれ以上の精度があるといわれています。最近では乳がん手術前の検査としてPETも導入されています。

 

腫瘍マーカー

がんによって作られ分泌される物質です。がんがあるその値は高くなります。一般的には乳がんの腫瘍マーカーには2種類があります。

  • がん全般の腫瘍マーカー  CEA・CA19-9など 

    乳がんだけでなくあらゆるがんや炎症でも陽性となることがあります

  •  

  • 乳がんに特異的な腫瘍マーカー CA15-3・BCA225・NC-ST439

腫瘍マーカー測定の目的

乳がん発見のため 

腫瘍マーカーの上昇はガンの存在を示唆します。しかし乳がんは前立腺がんや精巣腫瘍のように早期から腫瘍マーカーが上昇しないため、相当進行するか遠隔転移が起こるまで、ほとんどの場合は陰性です。早期発見のための診断的価値はあまり高くありません。

遠隔転移の確認のため 

多臓器に転移した場合腫瘍マーカーの値が上昇します。レントゲンや骨のシンチで遠隔転移の可能性が疑われた場合補助診断の方法となります。

治療効果判定のため 

遠隔転移に対する治療効果を判定するために用いられることもあります。抗がん剤を全身的に投与し転移したがんに効いたかどうかが反映されます。あくまで補助診断となります。

 

乳がんの遺伝子診断  腫瘍遺伝子 BRCA1・BRCA2
乳がんの一部は家族発生し、その半数近くの人がBRCA1・BRCA2というがん遺伝子を持っていることが明らかになりました。がん遺伝子異常は採血や口の中の粘膜で診断できます。そこで血縁者に2名以上の乳がん体験者がいる場合や、乳がん遺伝子の見つかった方がいる場合は遺伝子診断を勧められることもあるでしょう。遺伝子診断によって次のことが可能です。

  • 家族の中から乳がん遺伝子を持つ人を発見
  • 乳がん遺伝子保持者には検診を施行し早期発見・治療が可能
  • 予防的にホルモン療法や両側乳房全摘術を行い乳がんを予防

 

院長のひとりごと  女優のアンジェリーナ・ジョリーさんがこの腫瘍遺伝子を保持していました。両側乳房切除・子宮卵巣全摘術を行ってがん発生を予防した事実は世界的にも、特に女性に大きな衝撃を与えたことはあまりにも有名です。発がんの可能性がかなり高いいう確率論を基に下した結論です。


 

| 乳がんの進行度(病期分類)

 

乳がんの進行度は腫瘤の大きさ(T)・リンパ節転移の有無(N)・遠隔転移(M) 
で0〜4期に分けられます。

    乳がんの病期(ステージ) TNM分類
  • 原発巣の大きさや周囲の組織との関係 (T 原発腫瘍 primary Tumor)
  • 周囲のリンパ節転移の程度 (N 所属リンパ節 regional lymph Nodes)
  • 原発巣以外への転移・その他の臓器への遠隔転移の有無 

    M 遠隔転移 Distant Metastasis)

0期と1期が「早期乳がん」と呼ばれますが、0期は100%、1期なら90%の生存率が期待でき、早期発見がきわめて重要と言えましょう。

 

<2012年からの新しい病期分類>

 

0期 非浸潤がん(Paget病を含む)
1期 腫瘤が2センチ以下・リンパ節転移がないもの
2期 腫瘤が2センチ以上・リンパ節転移がないもの(IIA)
   もしくは2センチ以下・リンパ節転移があるもの(IIA,IIB)
3期 リンパ節転移が進んでいるもの(IIIA、IIIB、IIIC)、
   もしくは腫瘤が5センチ以上・リンパ節転移があるもの(IIIA,IIIC)
   もしくは腫瘤が皮膚や胸壁に及ぶ炎症性乳がん   (IIIB,IIIC)
4期 乳房以外の他の臓器(肺・骨・肝臓・脳など)に転移があるもの

 

| 乳がんと鑑別すべき病期(鑑別診断)  乳腺の代表的な良性腫瘤

 

線維腺腫(FA Fibous Adenoma) 

触診上は丸く境界明瞭で、弾性があり、可動性に富んでいます。この腫瘤は10代以後、20〜30歳代の女性に多く発症します。がんに変化することはありませんが、大きくなってから取ると傷も大きくなるので、急に大きくなってきたものや、すでに大きいものは切除が必要です。最近では乳房に傷を付けずに脇の下からとる方法も報告されています。

 

乳腺症(Mastopathy)

多くは痛みを訴えます。疼痛は周期的で排卵時から増強し始め、月経開始とともに消退します。痛みの持続はほんの数日の場合もあれば、数週間の場合もあります。通常は左右対称性に生じ、乳房の外側上方に最も多く起きます。良性や悪性の腫瘤はいずれも、より境界が明瞭ですが、乳腺症ははっきりとした境界を持ちません。線維腺腫よりも少し年齢を増した、30、40歳代に発症します。

 

乳腺嚢胞(Cyst)

のう胞とは内部が空洞もしくは液体が貯留した風船の様な病気です。甲状腺・肺・肝臓・腎臓などあらゆる臓器に発症します。乳房では乳腺症の所見の内の一つです。丸く、境界明瞭で可動性があるように触れます。疼痛や圧痛を有することがあり、本来は柔らかいのに液体が緊満すると固くなることがあります。

 

葉状腫瘍(Phyllode Tumor)

30代以降に発生する柔らかい腫瘍です。顕微鏡で観察すると“葉”のように見えることから葉状腫瘍と呼ばれます。昔は葉状肉腫と呼んでいましたが、今は良性、悪性の葉状腫瘍に分類されています。急激に大きくなり、ときには乳房の大きさが倍以上になってから病院を訪れる人もいます。診断は針生検が有用ですが、良性と悪性が入り交じっていることが多いので、その判断は全部切除してみないとわからないことがあります。治療は良性の場合はしこりのくりぬきも行われますが、局所再発をきたしやすく、再発するたびに悪性度が増すことから、乳房の単純全摘術が行われることもあります。悪性とわかっているときには乳房単純全摘術を勧められますがリンパ節を取る必要はありません。放射線療法や抗がん剤の効果はありません。

乳がんの治療

乳がんの治療方法には、 手術治療・抗がん剤治療・ホルモン治療・放射線治療 があります。

 

  • 手術療法  乳房切除(部分切除・乳房切断術)+腋窩リンパ節の郭清
  • 補助療法  ホルモン療法・抗がん薬・ハーセプチン治療・放射線照射

を上記を組み合わせた集学的治療を行います。

 

|乳がんの手術方法

 

乳がんの手術には侵襲度の低い順に

 

乳房温存手術⇒単純乳房切除術⇒胸筋温存乳房全摘術⇒乳房全摘術

 

いずれの方法でも生存率は変わりませんが、局所再発の予防のためには術後の放射線治療が不可欠です。乳頭付近のがんの場合温存できません。

 

乳房温存手術(+放射線治療)
  • くりぬき術(ランペクトミー Lumpectomy)

    しこりの周囲にわずかな正常組織を付けてくりぬきます。乳房の変形は軽度ですが、断端陽性(切り口にがんが残る)になる可能性があります。

  • 部分切除術

    通常の温存術はしこりの周囲に2p程度の幅で正常組織を付けて切除します。乳房の内側、特に下方にできたがんに部分切除を行うと、変形をきたします。

  • 4分の1切除術(扇状切除術 クアドランテクトミー Quadrantectomy)

    腫瘤を中心に乳房の4分の1を切除。4分の1切除術は乳房を比較的大きく取るので局所再発率は低下。乳房の変形が大きく美容的には劣る。

単純乳房切除術 

非浸潤がんに行われます。腋窩のリンパ節は残します。機能障害やリンパ浮腫は起きずらい。

胸筋温存乳房全摘術 (非定型的乳房切除術 Auchincloss法・Paety法)

胸筋以外の乳腺を取り囲む組織をすべて切除する最も一般的な手術です(Paety法では小胸筋を取る場合があります)。ハルステッドの手術に比べて運動機能障害とリンパ浮腫はきたしにくくなり、再建もやや容易になります

乳房全摘術 (ハルステッド手術)

大小胸筋+乳腺全摘術。今はあまり行われていません。術後合併症は運動機能障害・リンパ浮腫。再建も困難

皮下乳腺全摘術・皮膚温存乳房切除術(新たな術式)

乳腺だけを切除し乳頭・乳輪・皮膚は温存。機能障害はなく同時再建も容易です。局所再発率は若干高くなります

 

センチネルリンパ節(見張りリンパ節)生検とは?

<センチネル>とは<見張り番>の意味です。がんの周囲に色素や放射性物質を注射して、がん細胞が最初に流入する<見張り番>リンパ節を確認する方法です。手術中にマーキングしてあるセンチネルリンパ節を生検し病理医による迅速検査行います。もしセンチネルリンパ節にがんが転移していない場合 <それより遠いリンパ節には転移していない> という結論となり無駄なリンパ節郭清を行わずに済みます。リンパ節転移のあった患者さんにはこのリンパ節がすべて転移陽性でした。つまりセンチネル生検をすれば郭清をしなくても正確な病期の診断ができます。  

センチネル生検の適用

  • 腋窩リンパ節を触れない場合
  • 腋窩リンパ節への転移なしを証明したい場合(抗がん剤の使用を拒否したい)

センチネル生検の診断が不正確になる場合

  • 乳がん治療歴 乳がん手術・放射線照射を受けたことがある場合
  • 手術前に抗がん剤治療を受けた場合
  • 乳房の美容手術歴 豊胸術や乳房縮小術を受けたことのある場合
  • 腋窩再発の可能性が高く郭清が必要な場合
  • 腋窩リンパ節陽性 腋窩に転移を疑うリンパ節がある場合(再発の可能性)
  • 局所進行乳がん 乳房のきわめて広い範囲にがんがある場合
  • 多発性乳がん  乳房のあちこちにがんがある場合

 

乳がん治療指針

  • 2期までの乳がん 乳房の温存療法も可能 多発腫瘤の場合⇒非定型的乳房切断術
  • 3期以後の乳がん 薬物治療  有効例には手術(術前化学療法)
  • 4期の乳がん 根治的治療の対象とはなりません
  • 乳がん組織のホルモン受容体が陽性 内分泌(ホルモン)療法をメイン
  • 乳がん組織のホルモン受容体が陰性・リンパ節転移がある・腫瘍の組織学的悪性度が高い 抗がん薬治療をメイン
  • 閉経前・ホルモン受容体陰性 悪性度が高い。抗がん薬治療が行われることが多い
  • 閉経後 ホルモン(内分泌療法)が有効

大きく取っても小さく取っても生存率は同じ!
乳がんは局所のしこりから少しずつ周りに広がるため、周りの健康な組織やリンパ節を含めて大きく取ることによって生存率(寿命)が向上すると長年信じられてきました(ハルステッドの理論)。ところが近年、乳がんはかなり早期からがん細胞が血管内を移動して全身に廻っていると言われるようになり、大きく取っても小さく取っても、生存率は変わらないことが明らかになりました(フィッシャーの理論)。現在、乳がんの手術の目的は、根治性を損なわない美容の追求に変わりつつあるのです。

 

|補助療法  ホルモン療法・抗がん薬・ハーセプチン治療・放射線照射

 

乳がんの予後因子(補助療法の決定因子)

 

腋窩リンパ節転移 

最大の予後因子です。転移があるほど予後不良で、転移数の増加に従い予後不良

ホルモン受容体 

乳がんの多くは女性ホルモンと結合するための受容体(レセプター)を持っています。これをホルモン受容体と言います。しかしホルモン受容体のない(陰性)乳がんがあります。このタイプの乳がんは予後が悪いと考えられています。

腫瘍径

腫瘍の大きさ2cmをこえると予後不良

組織学的グレード

病理医が組織を顕微鏡で観たときの「がんの顔つき」のことです。グレード1〜3まであり、数字が大きくなるほど予後不良です。

年 齢

 科学的根拠には乏しいのですが、35歳未満は「若年性乳がん」といって予後不良です。

脈管浸潤

 がんが周辺組織の血管、あるいはリンパ管に浸潤しているかどうかということです。がん細胞は、血液やリンパ液の流れに乗り遠隔転移を引き起こします。つまり、脈管浸潤の程度が大きくなるほど予後不良になります。

HER-2タンパクの発現

乳がん細胞の表面にあるタンパクです。がんが増殖に必要な栄養素を取り込むための受容体を指します。これを多く存在する細胞はより多くの栄養素を取り込み可能なのでがんが活発に増殖すると考えられています。

 

|抗がん剤治療(化学療法)

 

手術の傷が治ったら術後4〜6週間以内に治療を開始します。乳がんに使用される代表的な抗がん剤には次のようなものがあり、頭文字で表されます。

  •  シクロフォスファミド(アルキル化剤) エンドキサン
  •  メトトレキサート(代謝拮抗物質) メトトレキセート
  •  5-フルオロウラシル(代謝拮抗物質) 5-FU
  •  アドリアマイシン(アントラサイクリン系)
  •  エピルビシン(アントラサイクリン系) ファルモルビシン
  •  タキサン系   タキソテール・タキソール

多剤併用療法 
抗がん剤は単独で用いると効果が少なく副作用が強い。数種抗がん剤を組み合わせて、効果の増強と副作用の減少を図ります。、抗がん剤の頭文字を並べてCMF療法・CAF療法・CEF療法・AC療法・FAC療法・FEC療法のように表現されます。多くの場合は点滴で投与します。

休薬期間 
抗がん剤は一度にやると身体のダメージが大きすぎるので、休みを取りながら一定間隔で繰り返します。この間隔が短いと身体が回復しませんし、長すぎるとがんが息を吹き返す可能性があるので、適切な間隔が決められています。休薬期間も含めた1回分の治療を1クールまたは1サイクルと呼びます。AC療法、FAC療法、FEC療法ならば3週間に1回の投与が1クールです。CMF療法、CAF療法、CEF療法のように1回分の薬を2回に分けて投与する場合は、4週間のうち1週・2週の始めに投与して1クールです。

CMF療法

 CMF療法をした場合はしない場合よりも生存率が高くなることが証明され、1970年代半ばより標準治療となりました。CMF療法は4週間ごと6クール(6カ月間)投与します。それ以上やっても効果は変わりません。

 

アントラサイクリン系の治療

 A(アドリアマイシン)やE(エピルビシン)の入った治療(CAF・CEF・FAC・FEC療法)は、CMF療法よりも生存率が高くなることが証明されたので98年以降はアントラサイクリン系の治療が推奨されています。ただし、その差は5年生存率で3%程度です。AC療法は3週間ごと4クール行い4週間ごと6クールのCMF療法と同じ効果であることが証明され80年代半ばよりCMF療法と並ぶ標準治療となりました。

 

タキサン系の追加治療

 タキソールやタキソテールという新しい抗がん剤を、効果の証明されているAC療法に追加して使ってみたところ、使わない場合よりも生存率が向上しました。現在、リンパ節転移の数が多いなど、予後の悪い患者さんに関してはアントラサイクリン系の治療に追加して使われるようになっています。最近の傾向としては、CMF療法やAC療法はだんだん使われなくなってきて、アントラサイクリン系の治療、特にアメリカでは先述したACにタキサン系を加えた療法、ヨーロッパではFEC療法が中心に行われています。

術前抗がん剤治療のメリット
1.生存率向上
抗がん剤は術前・術後のどちらに投与しても生存率に差はありません。乳がんの予後を左右する骨、肺、肝臓などへの遠隔転移に対しては早期に治療が開始されますので、理論的には術後に行うことと比較しても不利益はないと言えます。4〜6カ月手術を待つことがストレスになることもあります。
2.腫瘍縮小効果 術前に投与すると腫瘍が小さくなることがあるので、乳房温存がより可能になります。さらに抗がん剤の効果を正確に評価できます。また最近、HER2陽性の局所進行乳がんの患者さんに対してハーセプチンとタキソールを術前に投与した場合、67%の腫瘍縮小率が得られたことが報告され、注目されています。

化学療法(抗がん剤)の副作用とその頻度は?

乳がんは化学療法が非常に有効で、近年では広く行われています。抗がん剤をたくさん使えば使うほど効果も大きくなりますが、副作用も強く現れます。主な副作用には次のようなものがあります。

吐き気

 吐き気は下痢、疲労とともにしばしば起こります。吐き気の予防には制吐剤と呼ばれる薬(5‐HT3受容体拮抗剤)とステロイド剤の併用が効果的です。

脱毛症

CMF療法で約40%、CAF・CEF・AC療法ではほぼ100%です。予防法は確立していません。治療が終了すれば回復しますので、それまでの間ヘアーウィッグ(かつら)やバンダナなどをうまく利用するとよいでしょう。

白血球減少

体の抵抗力が落ちて感染症にかかりやすくなったり、血小板減少により出血を生じることもあります。発熱やのどの痛み、あるいは歯茎からの出血・皮下出血などがみられたら、すぐに医師に連絡してください。対処法として、白血球を増やす薬(G-CSF製剤)や細菌を退治する抗生剤が用いられます。1〜2%は入院が必要になります。

一生の無月経

若い人ではやや少ないのですが、それでも平均して約70%の方が閉経します。出産希望の方は抗がん剤の治療前に主治医とよく相談すべきです。

体重増加

CMF療法で14%程度出現します。

静脈血栓症

2〜7%の出現率の報告あり

心臓障害

アントラサイクリン系で1%以下で出現します。

|ホルモン(内分泌)療法

 

乳がんの約3分の2は女性ホルモンを栄養にして成長します。そのような乳がんはホルモンを取り込む受容体を持っています(ホルモン受容体陽性腫瘍)。そこでホルモン受容体陽性乳がんのうち、遠隔再発の危険性が高いものに対してホルモン療法が行われます。ホルモン療法には次のようなものがあります。

 

抗エストロゲン剤のノルバデックス(タモキシフェン)・フェアストン

閉経前の場合は卵巣機能抑制も併用します。卵巣機能抑制の方法には、注射薬(ゾラデックス、リュープリン)、手術による卵巣の切除、卵巣への放射線照射があります。

アロマターゼ阻害薬のアリミデックス・アロマシン

最近では、転移性乳がんのホルモン療法には、アロマターゼ阻害薬のほうが第一選択のタモキシフェンより優れ、副作用も軽いという報告もあります。ただし、新しい薬なので長期的な効果は今後の結果を待たねばなりません。

黄体ホルモンのヒスロンH

食欲増進や満月様顔貌(顔が大きくなる)という副作用があり注意が必要です。食欲増進を目的にホルモン受容体陰性乳がんに対しても用いる場合があります。

 

乳がんは術後5年以上経過してからの再発もめずらしくないので、治療成績は10年生存率で計算されます。

 

 

院長のひとりごと   補助療法のおかげで死亡率は減少している!
乳がん大国のアメリカでは、乳がんの罹患率は増加しているのに、死亡率は減少し始めています。マンモグラフィーによる検診が普及したこと、補助療法が普及したおかげだと言われています。

 

|ハーセプチン治療

 

HER―2はがんが増殖に必要な栄養素を取り込むための受容体です。HER―2陽性の乳がんは悪性度が高いと言われています。このHER―2に対する抗体がハーセプチンです。ハーセプチン投与によりこの受容体をブロックしがんの増殖を抑えます。

 

ハーセプチン単独使用

 30%以上の奏功率、48%の臨床的利益、さらに生存期間の延長が報告されています

 

ハーセプチンと抗がん剤の併用

 抗がん剤単独よりも高い奏功率が報告されています。アントラサイクリン系抗がん剤との併用は心臓への副作用のため避けるべきです。

 

転移性乳がんでHER―2陽性の場合

 治療開始当初からハーセプチンを使用することが勧められます。

 

副作用

  寒気(25%)・だるさ(23%)・発熱(22%)・心機能障害(2%)

 

|放射線治療  局所再発の予防

 

放射線療法は高エネルギーX線を乳房に照射して、がん細胞にダメージを与え発育を抑える治療法です。手術と同じく局所療法ですので、照射した部位の乳がん細胞にしか効果がありません。

 

1.全乳房照射 
乳房全体へ放射線を照射します。全乳房照射では、部分照射よりも再発率が低くなります

 

2.追加照射(ブースト) 
全乳房照射の後がんに集中して放射線をかけます。 50歳以下、中でも40歳以下では再発を減らすので実施されることがあります。しかし美容的結果を悪化させる可能性がありますので、そのバランスを考えて治療されます。

 

放射線治療の副作用

皮膚(放射線性皮膚炎)

発赤・色素沈着・痒み・痛み・水疱などときには薬を塗る必要がありますが、放射線治療が終われば徐々に回復します。乳房の硬さの増加、発汗や皮脂分泌の低下、乳房痛も照射後2年間ほどはみられます。

骨(骨髄抑制)

背骨や骨盤の広い範囲に放射線が照射されると骨髄細胞が減少します。白血球・赤血球・血小板が減少します。白血球が減少すると感染しやすく発熱することがあります(易感染性)。赤血球減少は貧血、血小板減少は出血傾向を生じます。

頭部(脱毛)

治療の初期には脳浮腫で頭痛や吐き気が起こることがあります。治療が進むにつれて徐々に軽くなります。放射線照射領域の毛根細胞が障害され脱毛となりますが治療が終了すれば髪の毛は必ず生えてきます。

頚部

喉や食道の粘膜に放射線が当たり喉の痛みを生じ、食物が喉を通りずらくなります。治療が終わっても2週間程度はこの症状が続きます。また、唾液腺に放射線が当たった場合には、唾液分泌が低下し、口が渇くようになり、それに伴って味覚も変化することがあります。症状の回復には半年から数年という長い時間が必要となります。

胸部

胸部臓器に影響が出現します。放射線肺炎(1.0%)・肋骨骨折(1.8%)・心膜炎(0.4%)などがあります。また大動脈・冠動脈の動脈硬化が進み狭心症になるケースもあります。 

 

上記の副作用は抗がん剤を同時に使ったり、広く照射するときは増加します。

 

放射線標準治療法

  • 放射線照射の副作用を最小限にする
  • 週に5回、5週間、計25回
  • かける放射線量は乳房全体に50Gy(グレイ)。追加照射する場合は10Gy
  • 放射線治療のみの場合術後8週以内。抗がん剤併用の場合は20〜24週以内
放射線療法を受けられないのはどのようなときですか?
  • 放射線治療を受けるための体位(背臥位にて患側上肢を挙上)がとれない
  • 妊娠しているとき
  • 過去に胸部放射線療法を受けているとき
  • 活動性の膠原病(強皮症、全身性エリテマトーデス)があるとき
上記のケースでは乳房全摘術を選ぶ方が安全でしょう。

田島クリニック

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