横浜・馬車道の総合診療クリニック

変形性頚椎症

|頚部の構造

 

頚椎は7個の椎骨から構成されており、各々は椎間板(前方部分)椎間関節(後方部分)で連結されています。椎間板は、円板状のゴムのマットのようなもので、両端は上下の椎体(脊椎の前方部分)と強く連結されています。椎間板は弾力性に富み、くびを動かすと椎間板の一方がへこみ、すぐにもとに戻ります。頚椎は頭を支時すると同時に、頭を動かす機能があります。また頚椎の中には脊髄が通っています。頚部脊髄から枝分かれした神経(頚神経根)は腕へ伸びています。頚部脊髄自体は、胸椎を下り運動(体や足の動き)や感覚をコントロールしています。

 

|頚部の役割

 

成人の頭は5〜7kgと重く、これに加えて両側の上肢の重さも頸椎にかかり、頸椎は寝ている時以外はかなり大きな負担を強いられることになります。変形性頸椎症はこうした負担に耐えている頸椎が、徐々に傷んでくる状態です。

 

|変形性頸椎症とは?

 

変形性頸椎症は、主に頸椎の加齢変化を原因として頚部痛・肩こり・背部痛などの局所症状を起こす病気です。椎間板は年齢とともに水分の保持能力が低下し、内圧が減少して弾力性・支持性が低下します。日常くり返される首の運動によって椎間板が痛むためです。それに伴い、上下の椎体の辺縁に骨棘と呼ばれる骨突出部ができたり、椎間関節が磨り減ったりする一連の加齢変化が生じます。その結果各々の椎骨や頸椎全体の形状が変化するため変形性頚椎症(頸部変形性脊椎症 Cervical Spondylosis)と呼ばれます。

変形性頚椎症の原因

原因は基本的には加齢変化ですが、かなり個人差があります。主症状である痛みの由来として、椎間板・椎間関節・筋肉・靭帯など様々な組織があります。

 

|加齢による頚椎の変形性変化

 

頚椎では30代から徐々に椎間板が潰れたり前後左右に張り出して来たりします。椎間板はクッションの役割を果たしているので、これが減ってくると椎体が硬くなり(骨硬化)、骨が出たり(骨棘形成)します。脊髄後方の上下の骨をつなぐ靭帯(黄色靭帯)が肥厚することもあります。これらをまとめて変形性変化と呼びます。

 

|頚椎の変形が起こりやすい部位

 

正常な頚椎椎では、第5-6、第6-7、ついで第4-5頸椎間の動きが大きいため、これらの部位の変形が起こりやすいのです。骨棘の形成、関節の変形やぐらつきは、脊髄や神経根の通り道(脊髄が入っている脊柱管や神経根が出入りする椎間孔を狭め脊髄症や神経根症起こしやすくなります。

 

|頚椎症性脊髄症と頸椎症性神経根症

 

変形性頸椎症に伴い、張り出した椎間板や骨棘、肥厚した黄色靭帯によって、神経が圧迫されて症状が出ることがあります。脊髄が圧迫される場合を頸椎症性脊髄症、神経根(脊髄から出る神経の枝)が圧迫される場合を頸椎症性神経根症といいます。

  • 脊髄の圧迫⇒頸椎症性脊髄症
  • 神経根の圧迫⇒頸椎症性神経根症

 

頸椎症性脊髄症の症状

 頸椎のレベルで脊髄が圧迫されると、手がしびれる、字を書いたりはしを使ったりという手の細かい動作がうまくできない、歩く時にふらつく、足がしびれるといった症状がみられます。進行すると手足の知覚が鈍くなったり、ふらついて歩けなくなったり、膀胱の障害が現れることもあります。また、

 

頸椎症性神経根症の症状

神経根の圧迫では、肩から手にかけて痛む、手がしびれたり知覚が鈍くなる、手の力が入りにくくなるといった症状が出ます。

変形性頚椎症の症状

|変形性頸椎症の症状の現れ方

 

肩こりや頚部の運動痛が最も多い症状です。項部(くびの後ろ)の痛みや重だるさ、くびの疲れ、肩こりなどが特にきっかけもなく現われて来ます。また背部痛も比較的多い症状です。とくに、頸椎の動きに応じて変化する痛みで、横になって安静にしていると軽快します。また、長時間の同一姿勢や作業後に増悪します。頸部の痛みに伴う筋緊張状態が頭痛・吐き気などを誘発することもあります。

激痛が突然起こることは少なく、症状が増悪・寛解を定期的に繰り返します。椎間板・椎間関節の変形と、周辺の靱帯・筋肉の緊張がで起こります。神経に圧迫が加わると、腕や足にも症状が現われてきます。

 

|頸椎症性神経根症

 

頸椎の椎間孔を通る神経根が骨棘で圧迫されて起こります。腕から指先までの響くような激痛やしびれ(放散痛)が初期症状です。進行せず自然寛解することが多いので、初期には心配はありません。神経質になりすぎて、精神的な要素が病状に重なるケースもあります。通常片側の症状のみで、両側の腕に症状が出ることはほとんどありません。頭・首の位置関係で症状が増悪したり軽快します。頭・首を斜め後ろに曲げると症状が誘発されます。

 

重症化すると指先の感覚が鈍くなったり(知覚障害)、腕力が弱くなります(運動障害)

どこの椎間孔で神経が圧迫されているかにより、知覚障害や運動障害の分布がちがい、症状から圧迫部位を推定できます。下肢症状もあれば、脊髄症状を合併していると考えられます。

 

|頸椎症性脊髄症

 

頸椎の脊椎管を通る脊髄が圧迫されると、腕・体幹・足に運動障害や知覚障害が現われてきます。通常ゆっくりと発症・進行します。症例によっては転んで頭を打った直後から急激に症状が現われることもあります。治療が遅れると、手術を受けても障害を残すことがあるため、非常に重要な病気と考えるべきです。体の左右両側に症状が出ることが多く、指の動きや歩き方で重症度がわかります。手指と歩行のどちらに障害が強いかは、人によってさまざまです。病状が進行すると、排尿までに時間がかかったり、尿を漏らしたりすることがあります(神経因性膀胱)

頸椎症性脊髄症の重症度判断基準

  • 箸を使って食事ができる
  • ボタンかけができる
  • 動作がスムーズ
  • 走れるか、歩くときに横ぶれしない
  • 手すりなしで階段を降りられるか

 

|頸椎症性筋萎縮症

 

腕の痛み・しびれはさほどないのに、気づかないうちに、腕や指の筋肉が細く(筋萎縮)なってくることがあります。脊髄症と神経根症の中間にあるような病気で、非常に稀なものです。

典型的な萎縮部位

  • 三角筋(腕を横に上げる筋肉)
  • 上腕二頭筋(肘を曲げる筋肉)
  • 上腕三頭筋(肘を伸ばす筋肉)

変形性頚椎症の検査と診断

変形性頚椎症の検査には次のようなものがあります。

 

理学的検査

変形性頚椎症の検査には次のようなものがあります。この結果と症状によって、脊髄や神経根の障害が診断できます。

  • 知覚検査 体表の感覚が鈍いところはないか
  • 筋力検査 力が弱くなっている関節はないか
  • 膝蓋腱反射 膝蓋骨の下を打腱器で叩いた時に膝から下が跳ね上がらないか

        (脊髄症の場合、異常に強く跳ね上がる  異常反射)

  • グーパーテスト 指の曲げ伸ばしを速くできるか

(脊髄症の場合グーからパーにする時に指を伸ばしにくい 運動機能異常)

  • 神経根圧迫テスト 頭を後方に押し下げて首を圧迫した時腕に痛みが走らないか

 

頚部X線検査

頸部痛などの局所症状だけで、診察上特に神経学的異常所見がみられず、X線検査で加齢変化を認める場合、変形性頸椎症の診断がつきます。変形性頸椎症以外の病気(脊髄腫瘍・脊椎感染・脊髄の血管障害・転移性脊椎腫瘍・頸椎後縦靱帯骨化症など)でも、同症状が発現する可能性があるためX線検査が必要です。

 

頚部MRI検査(磁気共鳴画像法)

磁場を使った検査でX線より更に詳細な情報が得られます。椎体の変形部位・椎間板の変形・神経根や脊髄への圧迫状況などが画像的に判断できます。椎間板が狭くなったり骨棘ができていたりするX線所見は、単に老化による変化にすぎないので、診断には参考程度にしかなりません。

変形性頸椎症は加齢変化のため他の頸椎疾患の可能性があります。痛み・手足のしびれなどの症状が出現持続・増悪する場合は、MRI検査で他の疾患の有無を確認することが重要です。

 

頚部CT(コンピュータ断層撮影)

MRIと同様椎体・椎間板・神経根・脊髄の状態が把握できます。MRIより検査時間は短く簡便な方法です。

 

脊髄腔造影

脊髄は脳脊髄液と共に脊髄膜に覆われ存在しています。脊髄腔造影は脊髄を包む膜に造影剤を注入し脊髄と神経根の形状をみる検査です。通常入院して行ないます。

 

神経根ブロックによる診断

神経根症が疑われる場合X線透視像を見ながら、圧迫を受けている神経に直接局所麻酔薬を注入し(神経根ブロック)、痛みがとれるかどうかによって病変の存在を確認することができます。

 

上記の検査でどの部位でどのような圧迫があるかの診断ができます。圧迫があっても無症状のことも少なくないので、圧迫部位と症状のあり方が一致した場合にだけ、それが原因と診断されます。

変形性頚椎症の治療

変形性頚椎症の治療目的は疼痛コントロールです。治療法として次のようなものがあります。

 

生活習慣の改善・理学療法・薬物療法・手術療法

 

生活習慣の改善

日常生活で痛みを増悪させる動作、すなわち同一姿勢の長時間の保持を避けます。また、痛みがない時期には体操などで積極的に頸部の筋力をつけることは長期的にみて有効ですし、特別な頸部の筋力訓練でなくても、ランニングなどの軽い運動も効果的です。十分な睡眠時間や精神的リラックスも重要です。

 

理学療法

くびや肩への温熱療法や牽引療法などの理学療法が一般的に施行されます。発症初期には、頸椎カラーという装具をつけ、くびの運動を制限する治療法もあります。いずれも症状をおさえる対症療法であり、2〜3か月間はようすをみないと、治療効果の判定はできません。頸椎の牽引療法も効果的なことがありますが、外来での牽引は、回数や時間の制限もあり、頑固(がんこ)な神経根症の場合は入院してベッド上での牽引を持続して行なう必要があります。この目的は、頸椎の安静を保つことで、くびを伸ばすことによって圧迫をとることではありません。牽引にかける重量は2〜8kgで、過度に牽引量を増やすことはよくありません。牽引で逆に腕の痛みが強まることがあり、こういう場合は中止するべきです。

 

薬物療法

疼痛が強い場合、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの内服治療を行います。症状が6カ月以上続くと改善の見込みが低くなります。筋由来の痛みが強い時は、トリガーポイント注射と呼ばれる局所麻酔薬の注射が効果的です。

 

手術療法

保存的治療をしても症状が軽快せず増悪するケースがあります。様々な検査でその原因が明確な場合に手術療法が検討されます。しかし首や肩だけの症状のみの場合に手術が行なわれることはまずありません。

手 術 法

  • 前方法(前方除圧固定術)

首の前方からアプローチします。椎間板と骨棘を切除し、その間隙に骨盤から採取した移植骨を挿入

  • 後方法(椎弓切除術)

首の後方からアプローチします。頸椎の後ろの骨を上下に広く切除し、脊髄を後ろに移動させて骨棘からの圧迫を逃れる

圧迫の状態、年齢などを検討して、どちらの手術法にするか決めます。手術により、症状の進行が防げるだけでなく、正常なまでに改善することも少なくありません。
脊髄症に対する手術効果は、手術までの期間(罹病期間)が長いほど、手術時の症状が重いほど、また手術時に高齢であるほど、回復は悪くなります。

 

|病状により治療方法の違い

 

神経根症の治療

 

神経根症は治療をしなくても治る傾向があります。

 

  • 内服薬  ビタミンB12剤などを使いますが、効果は高くありません
  • 牽引療法 神経根の出口である椎間孔を広くします
  • 頸椎カラー 頸部の安静の保持に有効です
  • 神経根ブロック 局所麻酔薬+ステロイド(副腎皮質ホルモン)を注射します

症状が強い場合、手術を行うこともありますが、多くは保存療法で改善します。とくに高齢者の場合は手術については慎重に検討します。

 

脊髄症の治療

 

脊髄症の場合は、自然経過での改善はあまり期待できません。脊髄症では、症状の進行がみられれば、保存的治療の期間を早めに打ち切り、手術を行なったほうがよい場合もあります。脊髄は脳と同じで神経細胞と神経線維の両方があるため、一度傷んでしまうと改善しにくい性質があります。脊髄症が原因で手が思うように動かない(運動障害)、ふらついて歩けない(歩行障害)・尿が出ずらい(膀胱・排尿障害)などの症状が生じた急激に症状が進んでいく場合などは早期手術が勧められます。手術は、脊髄の通り道を広くする脊柱管拡大術がよく行われています。他に頸椎で神経の圧迫を来す疾患には、頸椎椎間板ヘルニアなどがあります。

 

変形性頸椎症に気づいたらどうする
症状が長く続く場合やほかの症状を合併する場合は、整形外科を受診して確定診断をつけましょう。確定診断がついたら患者様に合った治療法を検討しましょう。過去に診断されている場合でも、時間がたっている場合や症状に変化がある場合は、再検査が必要ですので注意してください。

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